公開日 1998年12月9日 | 探訪日 1998年11月29日 |
河之邊 浩 |
大菩薩峠と言えばハイカーはもちろん山岳サイクリストの間でも有名な峠のひとつとして数えられることでしょう。 峠から小菅に下る小菅大菩薩路はいつ行っても自転車の轍がいくつにも刻まれていたりします。 今回は、おとなりの、人けもなく静かで長い山旅を楽しむことができる丹波大菩薩路を攻めてみることにしました。
スタートはもちろん中央本線塩山駅からです。 ここで自転車を組み立てて走り始めるつもりでしたが、 晩秋となった今は登山客の数もピークを越え、 大菩薩登山口行きのバス待ちの人の姿は多くはありません。 そこでバス輪行することにしました。これは決して安易な選択なのではありません。 これから行く丹波大菩薩路を楽しむために体力と時間を温存するための選択なのです。
バスは半分も座席が埋まらずに出発しました。 車窓からは山に雲がかぶってはいるのがわかりますが、気温は高めなのであまり不安はありません。 途中ほとんど無停車で予定より若干早く大菩薩登山口に到着しました。 ここで自転車を組み立て出発です。
ところがいきなりの急坂が、これがかなり手ごわいのです。 久ぶりの自転車ということもあり徒歩とは使う筋肉が違うということもありますが、 アプローチなしで体が慣れないスタート直後からいきなり急坂というのはやはりとてもきついものです。
途中、丸川峠への分岐にさしかかったあたりで一休みしてから、 ようやく調子が出てきました。 以前ここを走ったときには地道でしたが、今はきれいに舗装されて交通量も結構あります。 そのほとんどがハイカーのマイカーでタクシーも頻繁に往復しています。 ほとんど観光地化していますが、 本当の観光地のように大型バスが行き来しないだけまだ良いのかもしれません。
所々、残雪があるところを過ぎるともうすぐ上日川峠です。 あいかわらず賑やかな雰囲気に変わりはありません。 水を補給して少し休憩してから大菩薩峠を目指します。 次は福ちゃん荘までの道ですが、ここも舗装されているとは言え、 とてもきつい坂道です。 もちろん乗って走ることもできますが、 押したほうが楽で速いならそうしようという割り切りで乗ったり押したりして駒を進めます。
山荘をいくつか通り過ぎて木道を渡ってからはたくさんのハイカーと出会いましたが、 自転車押してるだけで奇異な目で見る人々もいる半面、 理解しようといろいろと聞いてくる人、 マイカーで来たのであろう「さっき抜かした自転車の人だー」という子ども連れの家族の方々、 実は自転車が大好きで「おっ、TA にサンプレですねぇ」「ニューサイクリング読んでますよぉ」 「パスハンターいいですよねぇ」「お気を付けて」と語りかけてくる人、 病気で入院していたけどリハビリがんばってようやく復帰したというシルバーな人などなど、 とても多彩な顔ぶれでした。
そんなこんなで大菩薩峠にはあっというまについてしまいました。 それにしても人が多いですね。あっ、山にはなんだか不釣合なけばけばしい色のサス付きの MTB も何台かいます。 ここでは落ち着かないのとまだ時間的に早いので、 介山荘で会社で使う湯飲みを買い求めてからフルコンバまで行って昼食をとることにしました。 そうそう、自然破壊の象徴だった上日川ダムですが水が張られてしまうと不自然さはなくなって景観と化してしまうのが不思議なところです。
大菩薩峠からはいつもさっそうと乗車してかっこうつけて走り去るんです。 でもすぐ先の岩がごつごつした段差のところに出てここで押してしまうんですけどね。 別に見栄を張るわけでもなく、 大勢のハイカーに乗って下るために苦労して押して登ってくるのを理解してほしいという気持があるのか、 最初から押しで下りではつまらないからなのかは良くわかりません。
乗ったり押したりを繰り返して右手にそびえる牛の寝方面の展望を満喫していると、 じきに明るいフルコンバにたどりつきます。 ここから小菅を目指して右に進むコースはほとんど100%乗車可能な急な下りが楽しめますが、 今日は無理に乗車するというより誰もいない静かで長い山旅を楽しむのが目的ですから、 乗車にこだわるのはいけません。ここでゆっくり食事タイムとしました。
それにしても晩秋だというのにとても暖かでした。 お茶を沸かすと静かな山の中にバーナーの音が目立ちます。 小菅へ向かって走りに夢中になっていたときには見ることのできない西側の展望もまた格別なものでした。
さぁ、これからが醍醐味です。 まずはだらだらの登り調子の森の中を行きます。 かすかに向こうに見える水色の空と熊笹や木々の緑色、落葉の黄色や茶色が織り成す模様の中を進んでいきます。 道自体はしっかりとして幅もそこそこありますが、 思ったより倒木が多く、また岩や石が多くてあまり乗車はできません。 やがて現れるつづら折りの下りも落葉の下に岩が多くて、乗車できないことはないのですがかなりの神経と体力を使います。 しまいに面倒になって自転車を押しながらさっさと歩いてしまいました。 そして、しばらくは美しい西側の展望を満喫しながら進んでいきます。 木立の中から抜けるような水色の青空がとても素敵です。
そして、ノーメダワに着きました。 ここまでは尾根の上で両側に展望が広がっていましたが、 ここから十文字までは尾根の南側を巻く道になります。 道がどこについているかわからないくらい落葉でいっぱいの斜面があったり、 もうすこし行くと日が差してとても明るいところを進んでいくようになったり、 変化に富んでいて印象の深い山道です。 本当にここはじっくりと味わいながら進んでいくのにふさわしいところです。 でも、だからといってまったく乗車できないわけでもなくて、 ちょっとした登り返しならペダルを踏んでそのまま登っていけるところもいくつかあります。
申しわけ程度の広さの屋根のついた小屋を過ぎると、 十文字に到着し起伏に富んだ尾根道も終りとなります。 ここからは小菅に下る道もありますが、整備されていないようです。 お目当ての丹波に行くには北側の昼でも真っ暗な森の中へと急降下していきます。 ここからは乗車率は高くなりますが、 木の根と岩はあいかわらず多くて必ずしも快適な下りというわけではありません。
このままの調子で下っておしまいなら、 たいして印象にも残らない普通の山行きになっていたかもしれません。 でもじきに沢が流れているところに着きます。 このあたりが本コースでクライマックスを迎えるところなのであります。 ちなみにあたりは高い木々に囲まれた谷ですから本当に暗いです。 夏に来たらさぞ涼しくて良いと思います。 それに非常に高い氣を感じましたから、きっと山の妖精でもいるのでしょう。 沢で道が途絶えているように見えるところなんか、 とても迷い易くて神秘的だと思います。 なんか妖精にいっぱいひっかけられたような感じがします。
ここはまずはじめに素直に支流の沢を横断しますと、 本流の左岸に出てじきにどんづまりになりますから、 河原のような右岸に渡って左手を注意しながら進んでいきます。 すると、左岸に道がついているのが見えますからまた渡って左岸に戻れば、 乗車可能な道が続いていきます。 ここはかなり山の経験を積んでルートを見る能力を鍛えておかないと危険なものだとつくづく感じました。
さて、ここまで来ればあとは迷うところもなく、 乗車可能な下りが続きます。 沢の水で洗顔していままでの疲れを取り去り、もうひと下りです。 道も良くなりスピードも自然と出ますが、 いきなり先が落ちていたりもします。たいしたことはありませんが。 それより石につまづいたりしないように慎重にコースを選んでいきます。
そして、ちょっと開けてきたなと思う間もなく藤ダワに到着です。 ここから左に行くと貝沢川沿いの道に出てじきに登山道はおしまいになります。 徒歩の場合にはバス停が近いし距離も短いのでこちらがお勧めなのですが、 自転車ではあまり乗車できないでしょう。 今日は自転車ですからさらに乗車できて距離も稼げるマリコ川沿いの道を選びました。 ここから貝沢川方面はとても明るくて開けているのですが、 それとの対比で余計暗く見える東側の森の中を乗車して下っていきます。 でももういいかげん飽きてきてしまうくらい長い登山道です。 まだかまだかという感じです。 それに峠から登山道終点まで誰ひとりとも会いませんでした。
道が平坦になってさらにすこし行くと工事現場の足場のような橋がいくつかあって、 下は何もない状態だしへこんだりもしているので自転車を持ち上げてそろりそろりと通過していきました。 最後につづら折れが現れるともう下の車道が間近となって、 登山道はおしまいになります。 でも車道に降りるのが難儀で、 急で狭い石段になっていたりするものですから、 自転車は担いでしまいました。 まさか最後の最後で今回初の担ぎが入るとは恐るべし。 このあとも舗装の車道をはさんで破線の小道が続いていますがもういいやという感じで辞退して、 舗装の道を滑べるように下って国道を奥多摩駅まで走っていきました。
装備 | 徒歩(参考) | 自転車 | |
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訪問日 | 1996年11月17日 | 1998年11月29日 | |
大菩薩峠登山口 | 発 | 07:53 | 08:17 |
丸川峠 | 着 | 09:41 | ‖ |
発 | 10:05 | ‖ | |
大菩薩嶺 | 着 | 11:20 | ‖ |
発 | 12:15 | ‖ | |
上日川峠 | 着 | ‖ | 10:00 |
発 | ‖ | 10:12 | |
大菩薩峠 | 着 | 13:01 | 11:08 |
発 | 13:11 | 11:23 | |
フルコンバ | 着 | 13:46 | 11:50 |
発 | 13:47 | 12:33 | |
ノーメダワ | 着 | 14:09 | 13:09 |
発 | 14:11 | 13:17 | |
十文字 | 着 | 14:40 | 13:53 |
発 | 14:42 | 13:58 | |
藤ダワ | 着 | 15:18 | 14:42 |
発 | 15:27 | 14:49 | |
登山道終点 | 着 | ‖ | 15:14 |
発 | ‖ | 15:20 | |
丹波バス停 | 着 | 16:05 | ‖ |
奥多摩駅 | 着 | 17:39 | 16:25 |
徒歩は参考ですが、別にランニング登山したわけではありません。
とにかく距離が長いし途中難しいところもあるので上級者向けのコースです。 登山未経験者不可。積雪期不可。 それなりの心構えと装備と経験があるかどうかをご確認の上お出かけください。
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