公開日 2009年1月5日 | 探訪日 2008年9月14日 |
更新日 2009年1月31日 | 河之邊 浩 |
時刻は16時44分。近付いてみると貧弱さがより一層思い知らされる桟橋だが、麓寄りに歩を進めて無事に通過することができた。
この先、地形図には他所ではあまり見掛けない振幅が大きいつづら折れの道として記載されているが、実際にはこんなに振幅は大きくはなく、小刻みにつづら折れを繰り返している。山地図には「四十八曲り」との記載もあるくらいだ。
桟橋の箇所も仮に破線の上に現在位置として示したが、実際には外れているかもしれない。傾斜が急なところであったからもう少し山寄りだったのではないかと思われる。
また倒木が現れたが、これは酷い。上から覆い被さっているので、背を屈めて通過する。自転車も難なく通過できた。
豊富な種類の植物に囲まれた中を下って行く。途中、石が多い箇所もあったので、そうしたところでは自転車を担いで越えていった。でも考えていたよりは安定した道であり、徒歩であればまったく問題はない。
もし仮に鎖場なんかが出現したら自転車持ちはそれこそ悲惨なことになる。
それにしても本当に倒木が多い。台風が原因だと思われるが、上から下まで特定の一帯にドミノ倒しのように倒木が集中していて、この一帯がちょうど登山道のつづら折れの稲妻道と交わる地点で写真のような惨状になっているのだ。しかし道を塞ぐ部分はきちんと手入れされて切られており、通行に支障はない。
だいぶ下ってきたようで、下方に新道らしき明るい色の人工構造物がちらちらと見え始める。もうコースに不安はない。
これは何かとても中途半端な切られ方だ。倒木に生えたキノコを残しておきたかったのだろうか、やや谷川に迂回している。欠き取られた部分に足を掛けて通過する。斜めなので捻挫しないように。
安心坂トンネルと甲子大橋の姿がはっきり見えてきた。回り込んでいるつづら折れの道は大黒屋旅館と旧道へと続くアクセス路となっている。甲子大橋は僅かにカーブしているように見える。写真下部には電光掲示板らしき構造物の裏側が少し見えている。ちょうど足元直下が甲子トンネルということになる。
森の中で写真を撮るために必要な光量が足りなくなってきた。じわりじわりと暗くなっている。しかし肉眼ではまだそんなに真っ暗というわけでもない。
少々焦ってきたこともあり階段状になったところで湿った泥に足を滑らせてしまった。もっと開き直らなければならない。暗闇の登山道を下った経験もないわけではないし、最後まで落ち着いて行こう。「大黒屋」の指導票に従って下山を続ける。
ISO感度を1600にしても写真撮影が難しくなる。あまり好きではないけれど、フラッシュを焚くことにした。
これは振り返って撮影したところ。左側から手前に向かって下ってきた。右の建物は温泉神社である。そう、あともう少しだ。
これも振り返って撮影したところ。右側から手前に向かって下ってきた。登山口が近いので、指導票も下山者向けではなく登山者向けに設けられている。甲子温泉から甲子山方面への往復を前提としているようである。
一般の登山者で甲子峠からこちらまで抜けるコースというのはたぶん考えられないだろう。甲子峠までのアクセスにバスは南倉沢までしかないし、乗用車を使ったとしても回収しなければならない。その点、自転車は難しい面もあるが、コースの自由度は極めて高い。
さきほど撮影した温泉神社への指導票。もちろんこれも振り返って撮影したところ。先の写真の左側の柵がここまで続いていて距離はごく僅かだ。
右手が山側であるが、すでに地形はなだらかとなっており勾配も緩い。結局、急斜面のつづら折れカーブは少なくとも地形図に描かれた倍の30以上はあった。
時刻は17時24分、左側から降りてきて自転車を置いて撮影したところ。白水滝への分岐地点である。さぁ、もう時間がない。見に行くか行かないかどうしようか。考えている間にもどんどん暗くなっていく。
とりあえずは暗くなる前に有名な国道標識を撮影しておこう。実はこの白水滝への分岐点からは目と鼻の先で、この写真手前側の見通せる範囲のところに設置されていた。
でもフラッシュを焚いたら反射して文字が全然映らない。フラッシュなしだと露出補正して絞り開放でシャッター速度1/30というのが技量の限界だ。この映像が名物国道標識との縁だったのであろう。
この国道標識をレポしたサイトは数多くあるが、判で押したように大黒屋旅館側からのアプローチを採っている。前述のように徒歩なら確かにそれしかコースの採りようがないからだ。はるばる起点側の甲子峠からここまで時間をかけて踏破した最終場面でこの国道標識に対面する、そんな山サイクリストだけに与えられた映像であると納得するしかないのだ。
登山道サイクリングでは登山道の下りを長く採るのが基本だし、山地図には破線ではなく実線で記入されていて危険はなさそうだったので、今回はこのコース以外には考えられなかった。そして幸いにも岩場や鎖場のような通過が困難な場所が皆無なばかりか、一部を除いて道はとても良く整備されていた。同じ登山道でも国道だけのことはある。
白水滝までの道は崖っぷちの上を行く危険な道であるが、空身ならそれほど難しくはない。到着してみると、対岸のはずなのに水しぶきが顔面にまでかかってくる。物凄い音量と勢いである。奥の直線状の堰が人工物のようでやや萎えるが、夏場の暑い季節にはリフレッシュできる良い場所だ。今日は時間もないし写真も撮影したので早々と戻る。
登山道での国道標識はもうこれが最後になるかもしれないので、裏側も撮影しておこう。いや、一般にはこちらが表側になるのかもしれない。フラッシュの光量が弱くなるように下がって撮影したところ、やっと文字が浮き出てきた。
水平線の遠方に大黒屋旅館が見えてきた。下に見えるあの橋のところでこの登山道は終わりになってしまう。無事にコースを消化できて安心する半面、もう終わってしまうのかと名残惜しくなる瞬間でもある。
橋は阿武隈川源流を越えている。左岸に見える水色の屋根のあたりが甲子温泉である。大黒屋旅館から甲子温泉までは阿武隈川源流を跨ぐ橋を含む専用の通路が設置されている。
最後は階段になっていたので、自転車を担いで降りて行く。対岸にも国道標識が設置されているのが見える。その奥は自動車が通行できそうな幅の広い砂利道となっている。
欄干のない橋の上から右手を見上げると、一里滝沢と南沢を飲み込んだ阿武隈川源流は巨大な3段の堰となっていた。こちらもすごい水量と音量である。
橋を渡り終わり、振り返って撮影したところ。時刻は17時35分であるが、森から抜け出せばまだまだ明るい。明るいうちに登山道区間を無事に踏破できた。
後から調べたところでは福島の日没時刻は17時48分であったのでまだ若干の余裕は残していた。
砂利道の坂を登り、大黒屋旅館の構内は自転車を押してゆっくり通過しよう。大黒屋旅館は連休中ということもあり繁盛しているようだ。入口まで出たところで振り返って撮影する。
ここで宿泊客らしき紳士とお会いして話をしたのだけれども、まずこの場所この時刻に自転車がいるというだけでもかなり驚かれた様子。スイス方面に行ってきたとのことで向こうでも自転車を含むアウトドアスポーツが盛んだとのこと。そして下郷町からあの大黒屋の奥に見える山を越えて来たと言ったときの更に驚かれた顔が忘れられない。
ついつい長話になってしまうが、今日は新白河が到着地であることをお話して許して頂き、17時43分に出発する。ここからは旧道を下っても良いのだが、最後は登り返しになってしまうし、噂の廃トンネルも見ておきたかったので、新道経由に決定する。
新道まで這い上がる最後の登り坂の途中で甲子大橋を下から覗き込む。あの山の頂上付近からつづら折れで下降してきた。ガードレールが焦茶色になっているのも景観に配慮しているからだろう。
安心坂トンネルまで来ればもう安心だ。つまらないギャグではなく、心からそう思った。ここから新白河の駅までは下る一方である。
正面の機器箱に視線が集中していたためか、それとも暗かったためか、帰宅してからトンネルポータルにお城のレリーフが彫られているのに気付き、物凄く驚いた。
トンネル内は下り勾配になっていてスピードはすぐに上がるが、照明が明るくて走り易い。
そして廃道となってしまった石楠花トンネルと新道の味気ないきびたきトンネルのツーショット。実際に訪れてみると確かに異様な雰囲気だ。石楠花トンネルのレンガ風トンネルポータルには亀裂が入っており厳しい状況が良く分かる。きびたきトンネルの天井部分には信号が設置されていた。
トンネルを抜けてキョロロン村に着く頃には、もうすっかり暗くなっていた。正面のお月様がとてもきれいなので撮影する。
これも決して狙ったわけではなかったのだが、帰宅してからこの日は旧暦で8月15日、なんと中秋の名月、十五夜であることが分かりこれにも大変驚いた。もう暗くなって早く帰りたいところをわざわざ自転車を停めて撮影するくらいきれいであったのも道理である。
この後はもう完全に真っ暗となり、自動車もほとんど走っていないので、ヘッドランプをハイビーム気味にしながら走破した。
途上の18時24分、喉が渇いたのでセブンイレブン福島白河高原店で飲物を購入して5分ほど休憩する。東北自動車道の高架下を潜ってすぐの信号がある交差点を右折して、新白河駅には18時42分に到着した。
ここまでの充実感を得られる山旅は稀であり貴重な体験だった。まだまだ見足りないところもあったが、新道開通後には甲子トンネルを利用してコースにさらに変化をつけることができる。機会があれば是非再訪したい。
自転車種別 | ランドナー | パスハンター | |
---|---|---|---|
探訪日 | 1989年11月5日 | 2008年9月14日 | |
会津田島駅 | 発 | 9:35 | ‖ |
会津下郷駅 | 発 | ‖ | 10:34 |
甲子林道起点 | 着 | 12:27 | 13:11 |
甲子峠 | 着 | 13:20 | 14:07 |
発 | 13:54 | 14:17 | |
甲子第1ピーク | 着 | ‖ | 14:25 |
発 | ‖ | 14:31 | |
甲子第2ピーク | 着 | ‖ | 14:43 |
発 | ‖ | 15:09 | |
甲子山分岐点 | 着 | ‖ | 15:48 |
発 | ‖ | 15:53 | |
猿ヶ鼻 | 着 | ‖ | 16:19 |
発 | ‖ | 16:27 | |
大黒屋旅館 | 着 | ‖ | 17:36 |
発 | ‖ | 17:43 | |
新白河駅 | 着 | 16:48 | 18:42 |
距離計 | 56.8km | 44.0km |
山地図では甲子温泉から大白森山への登山コースが中級向きとされている。自転車で行く場合には登山道区間の距離が少し長いので、陽の長い季節を選べば中級向き、春秋は上級向きと考えられる。いずれにしてもそれなりの山装備と経験は必要。逆コースは乗車できないので不可。国立公園のため落車や滑落して草木を損傷しないように特に注意が必要。
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