甲子峠から国道289号線登山道区間【1】

公開日 2008年12月1日 探訪日 2008年9月14日
更新日 2009年1月31日 河之邊 浩

会津下郷からのアプローチ

甲子峠周辺概略地図 (SVG/14KB)
SVG形式画像の閲覧方法

久しぶりの自転車での山行きに選んだのは一週間後には計画から30年来の甲子 (かし) トンネルを含む新道の開通が控えている国道289号線の甲子峠から大黒屋温泉旅館に続く登山道区間である。ふだん自宅近傍の平地は良く走ってはいるもののこの数年間標高1000mを越えた場所には訪れていない。久しぶりなのに鈍った体にいきなりこんなハードなコースを選んでしまって大丈夫なのだろうか。しかしこの時を逃せばもう登山道国道を行くチャンスはなくなってしまうかもしれない。そう思い、無理せずゆっくりと地道に攻略することにした。8月下旬から実行を計画していたのだが、なかなか休日と好天が重ならず9月になってしまった。しかし結果として新道開通1週間前ということで、開通直前の雰囲気を何か感じられることになるかもしれない。

会津下郷駅

起点は会津下郷駅とした。会津下郷は国鉄時代には楢原という駅名であった。1987年4月1日のJR発足から3ヶ月を経ずに会津鉄道に転換され駅名が変更されている。楢原駅の開業は1934年であるからそれなりに歴史がある。

本題の甲子峠であるが過去2回チャレンジしたことがある。1回目は1988年10月下旬、会津田島を起点としたのだが、この地方の気候に十分な知識がなく、10月だというのに途中から猛烈な吹雪となり、装備不足とあまりの寒さのため引返して失敗に終わっている。道路右手の真っ赤に色づいた大きな木を見て諦めがついたのを今でも良く覚えている。そして初めて訪れたこの駅舎で帰りの列車を待っていた。

会津下郷駅

2回目は翌年1989年11月上旬で天候に恵まれ無事に甲子峠を越えることができた。そのときは甲子峠から先の白河へは鎌房林道を下ったため、3回目のチャレンジとなる今回は甲子峠までが走破済みの区間となる。しかし所々新道が開通しているはずで、どのように変化しているのか楽しみだ。

自転車を組み立てて出発直前、期待に胸を膨らませる瞬間である。大樹の下に隠れている公衆便所は汲取り式ではなく水洗式に変わっていたのが意外であったが、いつまでも記憶に残る昔のままではないだろう。10時34分に出発する。

国道289号線

走り始めるといつもの調子でずんずん進んでしまう。今日は山行きにデジタル一眼を持参した最初でもある。コマ数の制限を気にすることなくどんどん撮影しようと考えていたのだが、一旦走り始めるとなかなか止まれない。すでに国道121号線を離れ大川を渡り少し登ったところで、ご覧のような横断幕が現れた。左手に下郷町役場があるはずだが道路からは良く見えない。

国道289号線

前回走った記憶などまったくない広くて新しい舗装になっている。新道の開通に合わせたのか、赤や黄色の花が植えてありとてもカラフルだ。前方の青看板と信号機が見える交差点で県道347号高陦田島線を横切る。会津田島を起点とする場合には国道121号よりこちらのほうが距離も短いし交通量も少なく自転車向きである。交差点を越えると遠くのほうに黒い電光掲示板が設置されているのが見えてくる。

電光掲示板

「国道289号甲子道路」「9/21(日)午後2時開通」の文字が数秒毎に交互に表示されていた。開通後はどのような表示になるのであろうか。

(写真にポインタを載せると表示が変わります)

国道289号線

右手に塩生 (しおのう) への道路の看板が見えてくる。県道347号高陦田島線を会津田島方面から走ってくる場合にはこちらの道がショートカットになる。

国道289号線

直線状のゆるい勾配をゆるいペースで登って行くと、今度は通行不能の青看板が現れた。左手には「国道289号」「開通甲子道路」「平成20年9月21日」の緑色の看板もあり、底辺の白い部分には「下郷町 国道289号線棚倉−下郷建設促進協議会」と書かれていた。相変わらず交通量はまばらだけれども、新道の開通により大きく変化してしまうのだろう。

国道289号線

山岳地らしい風景になってきた。現在地は合川の張平付近である。青看板には直進が南倉沢 (なぐらざわ)、70m先右折が杉ノ沢農免農道と表示されている。前方にぽっこりと盛り上がった山が高倉山である。このあたりも2車線のしかも歩道まで付いた真新しい舗装路が続いているのだが、さっぱり記憶にない。昔走ったはずの旧道はどこに行ってしまったのだろうか。

国道289号線

前方に大きな橋が見えてきた。松合 (まつあい) 橋である。国道標識には「下郷町」「張平」と書かれていた。そして橋の手前には何やら左に曲がる道が付いている。旧道だろうか。行ってみよう。

国道289号線

流れるようにきれいに続く新道は平成12年修正測量の2.5万図にはまだ描かれていない。左に曲がると道はすぐに右に回りご覧のように並走する形となる。やはり旧道のようだ。

国道289号線

そして旧道を進んでみると、しばらくしてガードレールで行き止まりになってしまった。前方を覗いてみたが橋は落されてしまったようで、完全に行く手は塞がれてしまっていた。過去に通ったはずの道がなくなっている。これはかなりショックが大きい。今まで関東周辺の山岳各地を走ってきたが、同じ場所に何回か行く場合でもせいぜい数年内に集中して行くことが多かったように思う。甲子峠も1回目の失敗のリベンジは翌年に果たしている。こうやって二昔も経過した場所に再度訪れるということは実は初めてのことだ。そして昔走ったはずの旧道はなくなってしまい、拡幅された高規格の新道へと変化している。

国道289号線

気を取り直して、先ほどの松合橋を渡りこのまま新道を行くことにする。ここからの区間は宮内や原の集落の中を貫く旧道のバイパスとなる。当日は地形図しか持っていかなかったため、右側前方に旧道への分岐があるもののとばかり思っていたが、結局それらしい分岐は見当たらなかった。帰宅後に他の新しい地図を確認したところ、それもそのはずで、先ほどの旧松合橋がなくなっていたため、新道から旧道に行くには右側後方に戻るような道を行かなければならなかったのだ。写真の場所は大きく切り取られていて、道はまっすぐ続いている。そして次の右カーブを曲がると・・・

国道289号線

さらに長くまっすぐ続いている。まっすぐなのはまだ良いとしても、まだまだ暑いこの季節、木陰がないのは自転車乗りにとっては少々つらい。遠くのほうでまた右にカーブしているように見える。対向車線には宅配便のトラックが小さく見えている。先ほど追い抜かれていたのだが、配達を終えてもう引返してきたようだ。

国道289号線

勾配はゆるいものの登り坂には変わりなくなかなか捗らない。まだまだ先ほどからのまっすぐの道が続いている。国道標識には「下郷町」「大松川」と書かれていた。きっとあの右カーブを曲がればバイパスも終了することだろう。

国道289号線

やっとのことでさっきの右カーブを通過して、振り返って撮影したところ。現在位置は大松川である。今回は太陽に向かう方角のコースなので進行方向は逆光となり写真撮影が難しいのだが、順光であればご覧のとおりくっきりと空気は澄んでいる。

ちょうどこの場所に木陰があったので小休止して水を飲んでいたら大きな枯れた葉っぱが上からひらりと落ちてきた。木が語りかけてくるように感じた。

国道289号線

さらに少し進むとこのあたりでバイパスは終了し、右手後方からの旧道と合流する。旧道に少し入ってみたが取付け部が結構な勾配になっていることから、このあたりも大規模な改良を受けたようだ。

国道289号線

なんだか場違いなところに来てしまったように思った。まだ甲子トンネル開通前で交通量は皆無に等しいので救われているが、カーブの路面にはバンクが付いていていかにも高規格の新道ですといった感じの雰囲気だ。もう旧道の面影はまったくなく、やはりここも大きな切通しとなっている。広い歩道が登り車線にだけ付いているのは自転車に向けた配慮だろうか。この写真にも遠方に小さく写っているのだが、自転車歩道通行可の標識がある。そして青看板には200m先登坂車線と表示されているが、登坂車線なんて今どき必要なものだろうか。車道左端を走る自転車にとってはもちろんありがたいことではあるけれども、勾配はそれほどきついわけでもない。

国道289号線

前方にカーブ注意と気温24℃の電光掲示板が現れた。その前方には水色のシートで覆われた看板もある。近付いて良く見てみると「福島県」「←南倉沢除雪ステーション」の文字がうっすらと透けて見えていた。左側に写っている建設中の建物が除雪ステーションになるのだろうけれどもまだ完成していない。きっと今冬には間に合わせるのだろう。

国道289号線

さらに登り坂を進んでいきじわりじわりと標高を稼いで行く。ご覧のように手前側は晴れて日が差しているが、前方の右カーブ付近は曇っている。雲が出てきては晴れてを繰り返している。気温24℃は自転車乗りに取ってはまだまだ十分に暑いので、峠に着くまでは雲っていて欲しいものだ。

時刻は11時31分、出発から1時間弱である。このあたり1回目にチャレンジした際に引返した地点ではないかと思うのだが、とにかく道路が拡福されていて当時の雰囲気が微塵もないため確証は持てない。旧道は2車線分もあるかと思うような幅員があったにもかかわらずセンターラインがないのが特徴だった。

国道289号線

新道のセンターラインは破線ではなくその右側の実線となっていて登坂車線がなおも続いている。前方に見えるのは新東開橋である。今風の青字の白看板までていねいに用意されている。

東開橋に新の字が付いているということは、旧道のただの東開橋も廃道になっていなければまだ残っているはずだ。

国道289号線

甲子峠への最後の集落となる南倉沢への入口。この旧道への分岐角度を見ると、やはり左側斜面が大規模に削り取られて新道に置き換わっているのであろう。旧道はレベルから若干の下り勾配になっていく。

国道289号線

下り切ったところで右手に東開橋が現れた。このときは強烈な陽射しでしかも逆光なので肉眼でもとてもまぶしかった。写真は画像処理を加えているが、路面の白飛びまではどうにも補正できない。振り返って順光でじっくり撮影すれば良いものを、何だかこの先どうなっているかが無性に見たくなってついつい先を急いでしまった。東開橋の手前左手には地形図には描かれていない農作業用の畔道 (あぜみち) が続いていた。

国道289号線

東開橋まで下った分を登り返す。路面はもっときれいだったと記憶しているが、写真のように所々ひび割れていて、補修跡も見られる。冬季に積雪のある道路の宿命なのか。

国道289号線

右端に小さな青い「←南倉沢」の道標が見えてきた。でも何だか様子がおかしい。前方に見える焦茶色のガードレールは何だろう。

国道289号線

焦茶色のガードレールのところまでたどり着くと、そこはなんと崖になっていた。旧道は「←南倉沢」の道標にもあるようにこの写真の左手にさらに続いてはいるのだが、それはもはや国道ではない。国道の旧道は焦茶色のガードレールを越えて続いていたのだ。それが今や大規模な開削工事により完全に姿を消し、崖と登坂車線付きの幅広い新道に化けていたのであった。

次へ


Copyright © 1994-2009 Koh Kawanobe <www@morinohiroba.jp> All Rights Reserved.